初心者のディベーターを救う団・公式ホームページ

2.3 試合の簡単な流れ

試合を実際に見てみよう!

前の節でディベートのフォーマットや各ステージの役割を説明しましたが、実際にどのような形で試合が進むのかを知らないことには、イメージはなかなか沸かないと思います。そこで、以下にディベートの試合を模した原稿を紹介しておきます。これでディベートの感じが大体つかめるはずです。

以下の原稿では、論題として「ドラえもんは22世紀に帰るべきである」を用いています。この論題は初心者向けのものとして割と有名なもので(もちろん、公式な大会では用いません!)、ディベートを見たことない人にとっても親しみやすいテーマだと思います。ドラえもんのことをよく知らない場合は、以下のリンクなどを参照してみてください。

アニメ『ドラえもん』公式HP(テレビ朝日)
フリー百科事典Wikipedia『ドラえもん』の項
ドラえもん学コロキアム

仮想ディベート『ドラえもんは22世紀に帰るべきである』

以下では、1回しか立論がないディベート甲子園の形式で試合を進めます。制限時間については、おおよそ立論で4分、反駁で3分ほどの内容を想定しています。各ステージごとに簡単に解説を付しておきます。


肯定側立論

肯定側は「危険なひみつ道具の管理」という理由で、論題を肯定すべきだと主張します。

最初に、ドラえもんが今の時代にいることで起こりうる問題点を説明します。
ドラえもんは現代にとって危険な道具を持っています。例えば、『熱線銃』『原子核破壊砲』『地球破壊爆弾』など、破滅的被害を巻き起こすような兵器を持っています。また、『スモールライト』などの道具も、相手を小さくして踏み潰すことで殺人道具になりますし、その他の道具も現在のテクノロジーでは実現できない様々な影響を与えることができ、歴史を変更する危険性のあるものです。
そしてこのような危険性を持つ道具が悪用され、危険な事態を引きおこす恐れがあります。これについて2つの可能性を説明します。
A:ドラえもんの暴走
ドラえもんはネズミが大嫌いで、ネズミを見ると暴走して、ネズミ退治のために危険な道具を使用する恐れがあります。実際に、ネズミを見て興奮したドラえもんが『地球破壊爆弾』を使おうとしたことがあります。
B:ドラえもんの拉致監禁
ドラえもんの道具を利用しようと、犯罪組織などがドラえもんを拉致して道具を奪う可能性もあります。そのような組織がドラえもんの道具を使用すれば、その被害は予測不能です。なお、ドラえもんはドラ焼きが大好物で、ドラ焼きにつられて道具を貸してしまう性格ですから、この性質を利用されるといくらでも犯罪行為に協力してしまう可能性があります。

こうした問題点を解消することがどれだけ重要であるか、2点説明します。
1.ひみつ道具による大災害を防げる
説明したように、ドラえもんの持っているひみつ道具は、地球を破壊しうるほどの危険性を持っています。こうした道具が悪用されれば、取り返しのつかない被害が生じます。このような事態を防ぐことは何よりも優先されるべきです。
2.未来の法律に定められた秩序を守る
22世紀の法律には、「航時法」という、歴史を変えてはいけないという法律が存在します。21世紀に存在しない22世紀の道具を持ち込んでいることは、それ自体許されないことです。法律にのっとって、21世紀に危険を持ち込んでいるドラえもんは回収されるべきです。

そこで、以下の形で、ドラえもんを22世紀に帰すことを提案します。
1.ドラえもんを22世紀の持ち主であるセワシの家に戻す。
2.タイムマシンを封鎖し、ドラえもんが21世紀に戻ってこられないようにする。
3.ドラえもんの失踪が問題とならないよう、21世紀の関係者についてタイムパトロールが記憶操作を行い、ドラえもんの記憶を忘れさせる。

これによって問題点が解決します。
まず、ドラえもんが21世紀からいなくなることで、危険なひみつ道具が21世紀で使用される可能性がなくなります。22世紀ではひみつ道具の存在が一般的になっていること、またタイムパトロールや警察がひみつ道具の使用をきちんと管理できるようになるため、道具が悪用される危険性はなくなります。

以上より、ドラえもんを22世紀に戻し、きちんと道具を管理できる論題を支持すべきだと考えます。

肯定側立論では、肯定側から「ドラえもんを22世紀に帰すべき理由」が出されました。具体的には、ドラえもんの持っているひみつ道具が危険であり、これが悪用されてとんでもない事態を引き起こす可能性があるので、22世紀できちんと管理しようというストーリーでした。
この立論の構成は第3章で詳しく説明されますが、ポイントとして「現在ドラえもんがいることによる問題点」と「その問題点を解決すべき重要性」が示され、それに対応した政策とそれによる問題の解決性が説明されていました。これらの要素が今後どのように反論されていくかに注目しましょう。


否定側質疑

否定側:それでは質問をはじめます。
肯定側:よろしくお願いします。
否定側:最初に、ドラえもんの道具が悪用される可能性についておうかがいします。肯定側の主張は、ドラえもんが暴走するということと、ドラえもんがつかまって道具を奪われるということでよろしかったですね。
肯定側:はい。
否定側:では、ドラえもんの暴走について。ドラえもんがネズミを見て興奮するということでしたが、多くの場合ドラえもんは気絶してしまうのではないでしょうか。
肯定側:50%の確率で気絶します。実際に、気絶せずに地球破壊爆弾を使おうとしましたし…
否定側:でも、使われてないですよね。
肯定側:たまたま止めてもらえたからです。周りに人がいない場合は分かりません。
否定側:では、誰かが止めれば大丈夫なんですね。
肯定側:上手く止められれば大丈夫です。
否定側:分かりました。では、ドラえもんがつかまるという話ですが、ドラえもんはたくさん道具を持っているんですよね。
肯定側:はい。
否定側:じゃあ、道具を使って身を守れるからつかまらないのではないですか?
肯定側:いえ、ドラえもんはドジですからうっかりつかまることもありますし、実際に大長編では何度もピンチになっています。また、ドラ焼きでつられてしまうこともあると説明しました。
否定側:そうですか。では、未来の法律…航時法についておうかがいします。未来の法律を守るために論題を支持すべきということでしたね。
肯定側:はい。
否定側:航時法というのは、歴史を変えてはならないということですよね。それなら、ドラえもんを22世紀に帰さなくても、個別の事件で対処すれば済むんじゃないですか?
肯定側:いえ、ドラえもんはのび太の結婚相手を変える目的で21世紀に来ていますから、そもそも法律違反なのです。また、危険な道具があってはならない時代に存在すること自体が法律違反だというのが我々の主張です。
否定側:そのためなら、人間の記憶を操作してもいい、とお考えですか?
肯定側:必要な範囲でなら…
否定側:そうですか。では、時間なのでこのあたりで終わります。ありがとうございました。

否定側質疑では、肯定側立論の説明について細かな部分を突っ込んで聞いていました。ポイントとしては、「誰かが止めればドラえもんの暴走は抑えられる」ことが確認されたことが否定側の成果として評価できそうです。また、最後のほうで「人間の記憶を操作する」ことについて質問がありましたが、このあたりは否定側立論の主張と関係しそうです。この点についてもう少しやり取りがほしかったところです。


否定側立論

我々は論題に反対する理由として4点、主張させていただきます。

1点目の理由は「のび太の成長が損なわれる」ということです。
現在、ドラえもんが21世紀でのび太と過ごす中で、のび太は人間的に成長を遂げています。そのことは、映画大長編の中でのび太がドラえもんとともに様々な困難を乗り越え、自分なりの正義感を身につけていることから明らかです。
ここで、ドラえもんが22世紀に帰ると、のび太はドラえもんとの冒険から学ぶことができなくなります。これによって、のび太はかけがえのない学習機会を失うこととなります。人間にとって学習機会は大切であり、特に人とのふれあいの中で心を育てる教育の機会は尊重されるべきです。これを奪う論題の採択は間違っています。

2点目の理由は「地球の危機を救えなくなる」ということです。
これまで、ドラえもんは様々な危険から地球を救ってきました。例えば、『のび太と鉄人兵団』においてはメカトピアの侵略から地球を守りましたし、『のび太の海底鬼岩城』ではアトランティスの鬼岩城から地球を守りました。
ここで、ドラえもんがいなくなると、こうした様々な危機から地球を守ることができなくなってしまいます。これにより、地球が滅亡してしまうかもしれないのです。よって、論題を採択すべきではありません。

3点目の理由は「人権侵害」です。
ドラえもんとのび太は親友であり、また野比家の家族の一員でもあります。また21世紀にはスネ夫やジャイアン、しずかちゃんなど、ドラえもんの友達がたくさんいます。
ここで、ドラえもんを22世紀に帰すことは、ドラえもんとこうした人々を強引に引き離すことを意味します。肯定側のいうように記憶を変えたとしても、ドラえもんを奪うということには変わりありませんし、ドラえもんとの幸せな思い出を消し去ることになってしまいます。ドラえもんにとっても、21世紀での楽しい暮らしから強制的に引き離されることは苦痛です。
日本国憲法13条には、幸福追求の権利は最大の尊重を払われるべきであると規定されています。ドラえもんと21世紀の人々の人間関係も尊重されるべきであり、これを破壊する論題の採択は、人権侵害として許されるべきではありません。

4点目の理由は「ドラえもんを見る子どもが悲しがる」ということです。
ドラえもんが22世紀に帰ることは、ドラえもんの世界だけにとどまる問題ではありません。現在、日本だけでなく世界中の人々が『ドラえもん』のマンガやアニメ、映画を見て楽しみ、感動を得ています。そんなドラえもんも、ドラえもんが22世紀に帰ってしまえば、終わってしまいます。子どもたちの財産であるドラえもんを奪うこの論題は採択すべきではありません。

以上から、我々はドラえもんを22世紀に帰すべきではないと主張します。

否定側立論では、4つも理由を出して論題を否定しています。実際の試合ではもっと少ない数の理由に絞って説明されることが多いのですが、たくさんの議論を出して相手の反論を難しくすることも一つのテクニックです。この先の試合では、肯定側が4つの理由について限られた時間の中でうまく反論できるかがポイントとなってきそうです。


肯定側質疑

肯定側:早速1点目の理由から聞いていきますけど、のび太はドラえもんから具体的にどういったことを学んでいるのですか?
否定側:そうですね、例えば『のび太と雲の王国』では環境の大切さを学んだりしています。
肯定側:なるほど。そういったものはドラえもんを通じてしか学べないのですか?
否定側:そうとは限りませんが、ドラえもんを通じてそういった要素を学んでいるということは確かです。
肯定側:では、次の質問に移ります。2点目で言われた地球の危機を救うというお話ですが、今後こういった事件が起こるということは証明されましたか?
否定側:いえ、しかしこれまでかなりの数が起こっているので、今後も十分起こりうると思います。
肯定側:そうですか。それでは質問を変えますが、ドラえもんが地球を救えたのはひみつ道具があったからですよね。
否定側:はい。
肯定側:そのひみつ道具は22世紀にもあるんですよね。
否定側:あります。
肯定側:分かりました。では、3点目の人権侵害という話についてですが、これはドラえもん周辺の人々が困るという議論でしたね。
否定側:はい、そうです。
肯定側:その人たちの記憶を変えてしまった場合、ドラえもんがいたことも忘れてしまうのですから、悲しくは思わないのではないですか?
否定側:いえ、問題はそういうことではなく、本当ならあったはずの幸せを奪うことがダメなのです。記憶を変えれば大丈夫だというなら、あなたの友達がどこかに連れ去られるとして、記憶さえなくなれば問題はないということになりますけど、それはおかしいですよね。そういうことです。
肯定側:なるほど…。では、最後に4点目の理由について聞いていきます。あなたはアニメ・マンガ・映画のドラえもんの話を全部見たことがありますか?
否定側:いや、それはないですね。
肯定側:そうですよね。ところで、ドラえもんが22世紀に帰っても、それまでのお話は再放送するなりして見られますよね。
否定側:はい。しかし、新しい話を待ち望んでいる子どもが…
肯定側:でも、見たことのない話であれば、子どもたちにとっても「新しい話」ですよね。
否定側:まあ、そうですけど…
肯定側:以上で終わります。ありがとうございました。

肯定側質疑では、否定側立論の全ての理由に時間を割いて質問をしていました。それで時間が分散されて十分に質問できなかった部分もありますが、「地球を救うための道具はドラえもん以外も持っている」ということや、「ドラえもんが22世紀に帰っても『ドラえもん』は終わらない」など、反論につながる内容を聞き出しています。これが反駁でどう生きてくるかが見ものです。


否定側第一反駁

否定側第一反駁をはじめます。
肯定側の議論は、ドラえもんの道具が悪用されるということがポイントになっています。これについて反論していきます。

まず、悪用可能性のA、ドラえもんが暴走するという点について。ここに3点反論します。
1点目。質疑で確認したように、ドラえもんがネズミに出会っても、半分の確率で気絶します。気絶すれば道具を使うことはないので安全です。
2点目。周りの人が止めるので大丈夫です。実際に、肯定側が出した例でも、のび太とそのお母さんが止めたので、使用されていません。
3点目。もし本当にドラえもんが暴走しそうになったら、22世紀のタイムパトロールがドラえもんを止めます。肯定側は22世紀に帰ればきちんと管理できると言っていますが、そうであれば21世紀でもタイムパトロールは監視できるのですから、事件は止められます。

次に、悪用可能性のB、ドラえもんがつかまってしまうという点について。ここにも3点反論します。
1点目。ドラえもんの存在を知っている犯罪組織があること、またそのような組織が今後出てくるという証明がありません。ですからつかまるも何も、襲ってくることがないので大丈夫です。
2点目。ドラえもんはひみつ道具を持っていますから、襲われても自分で撃退できます。
3点目。Aの議論で述べたとおり、本当に危なくなったらタイムパトロールがやってくるので大丈夫です。

以上から、ドラえもんの道具が危険だとしても、それが悪いように使われる可能性はありません。むしろ、否定側立論で述べたように、地球を守るために使用されるのです。

ここで、航時法に違反するという話に反論します。
航時法は、ドラえもんが21世紀にいること自体を禁じるものではありません。それを証拠に、これまでドラえもんがタイムパトロールに会った場面でも、一度も「帰れ」とは言われていません。歴史を変えるためにドラえもんが21世紀にいるわけではありませんから、論題を採択しなくても、ドラえもんは法律違反ではありません。むしろ、論題採択のために記憶を消し去るような行為こそが、憲法違反です。

否定側の反論は以上です。

否定側第一反駁では、ドラえもんの道具が悪用される可能性に対して細かく反論しています。これによって、事故が起こる確率を最小限にしようという狙いです。また、法律違反という議論についても攻撃をしていますが、これは「大災害」という議論が否定側立論で挙げた2点目の理由と重なることから、自分たちの理由と重なりのない部分を潰しておいて最後に有利となることを目指したものだと考えられます。
さて、この否定側立論・第一反駁に、肯定側第一反駁はどのような反論を行うのでしょうか。


肯定側第一反駁

最初に否定側立論に反論します。

彼らの1点目の理由について2点あります。
第一に、のび太はドラえもんと共に成長しているとありましたが、それはドラえもんと過ごさなくても身につくものです。環境教育は学校でもやりますし、心を触れ合わせる友達はしずかちゃん、スネ夫、ジャイアンと他にもいます。よって、ドラえもんがいなくなってもこの問題は発生しません。
第二に、ドラえもんがいることはのび太を甘やかし、逆にダメな人間にしてしまいます。のび太はいつもドラえもんの道具に頼り、最後はいたずらに使います。こういったことをやめさせることは、むしろいいことです。

2点目の理由についても2点あります。
第一に、論題実行後に地球の危機が新たに起こるという証明がありません。だから、ドラえもんが必要なのかは不明です。
第二に、ドラえもんがいなくても、22世紀には別にひみつ道具がありますから、それによって地球は守られます。それこそ、タイムパトロールの仕事です。だからドラえもんは必要ありません。

3点目の理由についてですが、私たちはドラえもんに関する記憶は消すことにしていますから、残された人々が悲しむことはありません。

4点目の理由については2点あります。
第一に、再放送などすればドラえもんは見続けられるのですから、問題はありません。
第二に、もしドラえもんのせいで私たちのいうような大事件が起こってしまえば、それを見た子どもたちはショックを受けます。だから、危険がまだ起こっていない今のうちにドラえもんを帰しましょう。

では、肯定側立論について再反駁をします。
ドラえもんの暴走については、気絶せずに爆弾を使おうとする可能性はありますし、また回りに誰もいない可能性もあります。タイムパトロールが出てくるという反論がありましたが、タイムパトロールが常にドラえもんをチェックしているわけではないので、これも限界があります。
ドラえもんはつかまらないという反論もありましたが、ドラえもんはドジなのでつかまる可能性はありますし、実際につかまったこともあります。そんなピンチをタイムパトロールが見逃せば、やはり危険性があります。
このような危険を21世紀に残しておくことは、航時法の精神に反しているので、やはりドラえもんは22世紀で管理すべきなのです。

以上です。

たくさんの否定側の議論に対して、まんべんなく反論を返しました。肯定側第一反駁は自分たちの立論を最低限守りながら相手の議論を攻撃しなければならないのですが、この試合では一応肯定側第一反駁の仕事は成功したといえそうです。さらに、相手の立論に対して「それは逆によいこと」という形の反論(ターンアラウンドと言います。詳しくは第5章)もしており、かなり強力な攻撃ができています。ただ、否定側立論の3点目の理由(人権侵害)については反論が弱くなってしまったので、この点を否定側に突かれてしまうことは避けられないでしょう。


否定側第二反駁

この試合のポイントは2つありました。「ドラえもんは地球の平和にとってプラスかどうか」という点と「ドラえもんをのび太たちから奪っていいか」という点です。それぞれ見ていきましょう。

まず、ドラえもんの安全性について。
肯定側立論では、ドラえもんの道具が悪用される可能性を述べていました。しかし、ドラえもんが止められないようなところで暴走したり、つかまって道具を奪われる可能性はほとんど考えられません。たとえそうなったとしても、タイムパトロールが道具の悪用を止めてくれます。肯定側はタイムパトロールも完璧でないと言いますが、それであれば、ドラえもんが22世紀に戻っても危険は解消されないのですから、論題を採用する理由はないです。ですから、ひみつ道具の悪用可能性はドラえもんが帰る理由にはなりません。
一方、私たちが立論の2点目で述べたように、ドラえもんは地球を危機から何度も救っています。確かに、これから同じような危機がやってくるかは分かりませんし、できることならそうなってほしくありません。しかし、過去に何度も事件があった以上、これから問題がないとは言い切れませんし、そんな時にドラえもんの力が必要となるかもしれません。ドラえもんはいわば最後の切り札であり、22世紀に帰してはならないのです。

次に、ドラえもんをのび太から奪うことについて。
肯定側は、記憶を消すから悲しみはないと言いました。しかし、肯定側の政策がのび太たちからドラえもんという存在を奪うという事実は変わりありません。もし引き離されなければ新しく生まれたであろう思い出は失われ、これまでの思い出も知らないうちに壊されてしまいます。これは国家による精神的暴力であり、まぎれもなく人権侵害です。ドラえもんがいると甘やかされてダメだ、という反論もありましたが、だからといって全ての思い出を否定する理由にはなりません。

まとめますと、ドラえもんの危険性はほとんどないし、あったとしてもそれは22世紀に帰ることでなくなるような問題ではありません。それどころか、ドラえもんを帰すことは地球の危機を回避する手段を減らし、そして何より多くの人々の思い出を踏みにじります。よって、ドラえもんを22世紀に帰すべきではありません。これが私たちの主張です。
どうもありがとうございました。

否定側の総括でした。ここでは、否定側が不利だと思われる教育の議論やテレビ放送の話を捨てて、勝てそうな部分に話を絞ったまとめをしています。特に、相手側の議論と結論がぶつかっている「地球の危機」という話を強調したりすることで、自分たちの話が相手を上回っていることを示そうとしているところがポイントです。
これに対して、肯定側はどのように自分たちの議論をまとめるのでしょうか?否定側が作った「ドラえもんの危険性はないし、むしろ危険を減らす」という筋書きをどのようにひっくり返すかが見所となりそうです。


肯定側第二反駁

私たちが何よりも主張したいのは「22世紀の世界にはドラえもんを管理する責任がある」ということです。
ドラえもんは22世紀からやってきました。ドラえもんは21世紀には本来いないはずのロボットなのです。ですから、22世紀はこのドラえもんに責任を持っています。過去に危害を及ぼさない、歴史を変えないという趣旨の「航時法」を守り、地球の安全と人々の健全な成長を保護することこそが、最優先の課題として考えられるべきなのです。これこそが、私たちが当初から一貫して主張してきたことです。

この観点から、ドラえもんの危険性を見ましょう。
まず、肯定側立論を振り返ります。ドラえもんの道具が悪用される可能性は少ないと否定側はおっしゃいますが、ゼロではありません。本当ならありえない危険がほんの少しでも起こりうる…これこそが問題なのです。一度問題が起これば、大惨事になってしまいます。
否定側は第二反駁で、タイムパトロールが危険を管理するし、21世紀のドラえもんを保護できないようでは22世紀に帰しても意味はないとおっしゃいました。しかし、これは2つの意味で誤りです。第一に、21世紀ではおおっぴらにタイムパトロールは動けませんが、22世紀ではより簡単に管理が可能です。これは立論でも述べております。第二に、大事なことは「21世紀で」起こる事故を防げるということです。22世紀の政府は過去に対して責任を負っているのです。
ここで、ドラえもんが地球を救うということについて。まず、今後ドラえもんが必要になるかどうかは分からないということがあります。そして何より重要なことは、ひみつ道具によって地球を守ることはドラえもんの仕事ではないということです。それはあくまでタイムパトロールの仕事であり、危険なドラえもんを放置しておく理由にはならないのです。

次に、ドラえもんがのび太たちにもたらす影響についてです。
ドラえもんは確かにのび太たちにとってかけがえのない存在です。しかし、それは本来「あってはならない」存在でもあります。21世紀の人々の危険を考えれば、のび太たちの思い出が少々犠牲になるとしても、仕方のないことです。そして、ドラえもんを帰すことで、のび太は道具に頼る機会を失い、あるべき姿に戻ることができるのです。

繰り返しますが、ドラえもんの存在が少しでも危険性を持つのであれば、それは何としても解決すべきです。それがドラえもんを産んだ22世紀の責任です。この目的を守ることは、21世紀の人々のなかの一部にすぎないのび太たちの問題より優先されるべきです。そして、このようにして筋を通すことが、テレビを見ている子どもたちに対して世界の破滅を見せないという意味でも、望ましいことです。
ですから、悲しいかもしれませんが、私たちはドラえもんを22世紀に帰すべきなのです。

肯定側第二反駁では、「22世紀の責任」というストーリーを立てて議論をまとめてきました。肯定側立論で挙げたドラえもんの危険性はかなり減じられていたのですが、残った部分を最大限強調するための構成といえます。のび太たちの思い出が損なわれるという痛い議論についても、大きな重要性と比較して正当化を図っています。否定側の反論が結構うまく行っていた展開ではありましたが、当初から予定していた筋書きで逃げ切ろうとしたという感じですね。


これで試合は終わりです。どちらが勝っていたか…という答えはありません。まずは読んでみた感想として、自分なりに判断をしてみてください。第3章に議論の作り方を、第8章にジャッジのやり方を解説してあるので、そちらを読み終えた後にこの原稿を見直すと、いろいろ違ったところが見えてくるかもしれません。
とにかく、ここでは「ディベートってこんな感じなのかぁ」と思っていただければ十分です。次からは、少し細かいルールについて説明します。

2.4 スピーチのルール

Contents of This site


Copyright© 2007
SDS団&愚留米 All Rights Reserved.
Powered by sozai.wdcro
inserted by FC2 system