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3.6 対抗案を考えよう(発展編:Counterplanについて)

対抗案の必要性

ディベートでは、論題に対して「これを採用すべき」と主張する肯定側と、「いや、採用すべきではない」と主張する否定側に分かれて議論が行われます。そこでは、肯定側は、論題を実行するための提案を行い、否定側はそれに反論することになります。しかし、否定側もただ反論するというものではなく、自分たちの立場を主張する必要があります。

ここで、否定側は「今のままでいい」という現状維持の立場を取ることもできます。しかし、それでは十分に説得的な議論ができない場合が出てきます。
例えば、首都機能を東京から移転するべきか否かという論題について、肯定側が「今の首相官邸は耐震性が低く、東京で地震が起こったときに困るので、地震の危険性が低い福島県に移転しよう」という議論を行ってきたとします。ここで指摘された「首相官邸は耐震性が低い」という主張を聞いて真っ先に思いつくのは「じゃあ首相官邸の耐震性を上げるために工事しよう」ということであって、首都機能移転のように無駄なお金をかける必要はありません。すると、このような肯定側の議論は、わざわざ首都機能を移転する理由にはなりそうもないのですが、否定側が「移転もしないが首相官邸の改造もしない」という立場しか採れないとすると、地震に弱い首相官邸を放置するのか地震に強い首相官邸を新しく福島県に作るのか…という、非合理的な二者択一で頑張るしかないということになってしまいます。

このような場合に否定側がすべきことは、「わざわざそんなことしなくても、今の首相官邸を改造すればいいじゃないですか」という対案の提示です。単に肯定側の政策を吟味するだけではなく、自分たちも対抗案を出して議論することで、より実りある議論を展開することができるのです。

カウンタープランとは何か

以上のような対抗案を、ディベートではカウンタープラン(Counterplan)と呼びます。カウンタープランは、肯定側のプランに対抗するものとして、否定側から出される別のプランです。
分かりやすい例を挙げるとすれば、「昼食にカレーを食べるべきである」という論題の否定側は、カレーを食べるというプランに対抗して「カレーではなくラーメンを食べる」というカウンタープランを提示することができます。

このようなカウンタープランが肯定側のプランを否定する議論になる理由は何でしょうか。上の例で言えば、「ラーメンを食べるという話はよく分かるけど、だからといってカレーを食べちゃいけないってことはないだろう。何も食べない(現状維持)よりはカレーを食べた方がいいのなら、カレーを食べる『べき』という理由は否定できないのだから、カレーに反対したいなら、カレーを食べるべきではないという理由を述べてくれないと困る」ということを主張することができます。この問いに答える「カウンタープランが論題を否定する理由」には、以下のようなものがあります。
第一に、カウンタープランはメリットの内因性(論題によってしか解決しない問題がある)を否定する、と考えるものです。この場合、カウンタープランによってメリットで指摘された問題(空腹である、など)が解決するのであれば、その問題は論題以外の方法で解決できるため、内因性が否定されるということになります。しかし、内因性で「論題によってしか解決しない問題がある」ということを要求しているのは、放っておいては問題が解決しないために論題が必要であるということを示すためのものでした。ですから、現状のアクションとは異なるカウンタープランで内因性の問題が解決される、というだけでは「放っておいても問題は解決できる」とは言えないのですから、カウンタープランとプランを比べた上で前者が望ましいという一層の理由が求められるというべきであり、これだけで内因性を否定できるとはいえないでしょう。
第二に、カウンタープランと両立しないプランは、カウンタープランを採用する機会を損なわせるものであり、カウンタープランがプランより望ましい場合、そのような望ましい政策を妨害するプランは採用されるべきではない、という考え方です。この場合、カウンタープランの提示は「このように望ましい政策が取れなくなるのは問題である」というデメリットのような形で理解されることになります。
第三に、プランより望ましい形で問題を解決できるようなカウンタープランがあるときは、それを採用することが望ましいのであって、そのような場合には「プランを採用『すべき』」とはいえないから論題は否定される、という考え方です。これは、カウンタープランとプランの政策競争という構図で議論を捉える考え方です。

と、ここまで説明しておいてなんですが、以上のような「カウンタープランが論題を否定できる理由」そのものは、ディベートにおいてさほど重要ではありません。大切なことは、ここから「カウンタープランに求められるもの」を考えることです。これについて、次の節で見ていきましょう。

カウンタープランの要件

上記の検討から、カウンタープランは「プランより望ましい政策」でなければならない、ということが分かりました。また、これは「論題を否定する理由」でなければなりません。このようにいうために必要な要件について、以下で見ていきましょう。

第一に、カウンタープランは論題を支持しないものでなければなりません(非命題性:non-topicality)。否定側の政策がいくら肯定側のプランより優れているとしても、それが論題の範囲内にある場合、論題を否定する理由にはなりません。これは、上の例について「君のいう○×屋ではなく△□屋のカレーを食べよう」と言ったところで「じゃあ結局君もカレーを食べたいのか」となることからも明らかでしょう。
この要件の証明は、論題充当性で示した内容を参考にしてください。

第二に、カウンタープランはプランより優れたものである必要があります(優位性:superiority)。これは、プランを否定する理由としてカウンタープランを出す以上、当然求められることです。具体的には、カウンタープランはプランより効率的に内因性の問題を解決するとか、カウンタープランはプランから生じるデメリットを回避できるとか、カウンタープランは別のメリットを持つというような理由を主張することがこの要件の説明になります。
カレーとラーメンの例でいうなら「ラーメンはカレーより刺激が弱いので胃腸の弱い僕でも食べられる」というような説明になります。

第三に、カウンタープランはプランを排除する、言い換えればプランと競合するものでなければなりません(競合性:competitiveness)。これはどういうことかというと、肯定側としては、カウンタープランを採った上でプランを採ることも可能ですから、そのような場合はカウンタープランはプラン(論題)を否定する理由にはならないということです。カレーとラーメンの例でいうなら「カレーもラーメンもおいしいんだったら両方食べりゃいいじゃないか」というわけです。カウンタープランがプランを採用する機会を奪う、あるいはプランと同時に採用することが望ましくないといえない限り、カウンタープランは論題を否定できないのです。
この説明では、カウンタープラン単独の採用と、カウンタープランとプランの同時採択(permutation)を比べて、前者が望ましいことを示すことになります。具体的には、プランとカウンタープランを同時に採択することは物理的に不可能である(昼食時間は限られているのでラーメンとカレーは同時には食べられない)という説明や、同時採択は可能だがそれが効率性を下げたり(ラーメンとカレーを同時に食べるとお腹一杯なので味が分からなくなる)新たなデメリットを生む(ラーメンとカレーを同時に食べると食べすぎで太る)という説明が可能です。
ここで気をつけるべきは、競合性の説明で「カウンタープラン単独だとプランから生じるデメリットを回避できる」と主張することは無意味であるということです。なぜなら、プランのメリットがデメリットを上回っている場合は、同時採択(プランのメリット+プランのデメリット+カウンタープランのメリット)とカウンタープラン単独を比べたところで同時採択の方が優れているために競合性は成立せず、プランのメリットがデメリットを下回っている場合は、そもそもカウンタープランを出す必要はないからです。

以上が、否定側がカウンタープランの証明として示すべき内容です。
肯定側がカウンタープランを出された場合は、以上の要件について攻撃をしかけます。特に有効なのは、競合性について、プランとカウンタープランは同時に採択しても問題はないという主張です。この場合、肯定側はカウンタープランの全部または一部を取り出し、それが自分たちのプランと同時に採用でき、またそれによって否定側のいうような利点は得られるということを示します。

カウンタープランの活用方法

以上のような要件を踏まえて、カウンタープランを実践で活用する方法についていくつか紹介しておきます。

第一に、肯定側の指摘する問題をよりよく解決する方法としてカウンタープランを出す方法です。この場合、肯定側のメリットで述べられた内因性に着目し、それをより効率的に解決する(強い解決性を持つ)方法として提示します。これは、前述した「カウンタープランが論題を否定する理由」の一番目、三番目の発想から来ています。問題解決のために論題を採用することが大袈裟である場合などに用いると良いでしょう。

第二に、論題の採択が採用可能な政策オプションを減らすためそれ自体望ましくないということを示すために「採用不可能になる望ましい政策」の例としてカウンタープランを出す方法です。これは、前述した「カウンタープランが論題を否定する理由」の二番目の発想から来ています。このような議論が効果的な例として「日本は日米安保条約を破棄すべきである」のような論題を挙げることができるでしょう。この場合、この論題を採用することは日米間の軍事的協力を致命的に妨げる可能性があり、それを説明するためにカウンタープランを提示することが説得的な議論方法となります。

第三に、デメリットの固有性(現在はデメリットが発生していない)を作り出すためにカウンタープランで新しい前提を作る、という活用方法があります。これは、現在は政策が曖昧なために、論題の採用で強く発生すると思われるデメリットが既に生じかけているという場合に有効です。例えば、「日本は原子力発電を廃止すべきである」という論題からのデメリットとして「石油の輸入が不可能になった場合電力供給できなくなる」というものがありますが、これは現状でもおなじことです。そこで、カウンタープランとして「全ての火力発電所を順次原発にしていき、最終的に発電手段を全て原子力発電所と水力発電所だけにする」という政策を提案すれば、このデメリットに固有性が生じます。

第四に、どうしようもないときの時間稼ぎとして、いかなる政策にも対応できるカウンタープラン(generic counterplan)を提出するということがあります。といっても、普通には相手にされないような議論なので、そういう議論もありうるのかという程度に思っていただければ幸いです(個人的にはこのような議論で時間を浪費されないことを願っております)。どのような例があるかというと、「IQの高い天才を集め、彼らに論題採択の是非を決めてもらう」とか「国民投票で論題採択の是非を決める」とか「論題と同じ政策を別の主体(外国や地方公共団体)にやってもらう」とか「無政府状態にする(論題は採用不能)」といったものがあります。一見して分かるように、実際の問題や理論上の問題が山積していますし、何よりも建設的な議論につながるとは思えません。というわけでここでは詳しくは紹介しません。

以上、カウンタープランの簡単な説明です。カウンタープラン特有の考え方については上記の通りですが、それぞれの要件の証明方法については、メリット・デメリットの説明や論題充当性の説明で示した内容と同じですから、そちらを参照してください。
次からは、実際に議論を作る方法について説明します。まずは下準備であるリサーチの方法からです。

4.1 リサーチの目的

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